液冷 では、AI ラックがなぜ液冷を避けられないのかを説明した。この記事では、液冷の中で最もよく名前が挙がり、最も誤解されやすい方式を取り上げる。サーバーを丸ごと液体に浸す液浸冷却だ。
いちばん強力に聞こえるが、AI 放熱の主流にはまだなっていない。これは AI ハードウェアサプライチェーン総まとめ の放熱の関の延長だ。
液浸冷却とは何か
液浸冷却(immersion cooling)は、サーバーや主要部品をまるごと絶縁性の冷却液(dielectric liquid)に浸し、液体を発熱部品に直接触れさせて熱を運び出す方式だ。コールドプレートはチップに密着させた金属板の中で液体を循環させるだけで、産業標準団体 OCP の定義では液浸に当たらない。
液浸はさらに2種類に分かれる。
- 単相(single-phase):液体は熱を吸っても沸騰せず、ポンプで循環させ、熱交換器で熱を外へ送り出す。構造は比較的単純で、炭化水素やエステル系の冷却液をよく使い、含フッ素(PFAS)のリスクは低めだ。
- 二相(two-phase):液体が熱を吸って沸騰し蒸気になり、上部の凝縮器に触れて液体に戻る。運び出せる熱が多く超高密度に向くが、密封が複雑で、含フッ素冷却液を使うことが多い。
空冷、コールドプレートとどう違うのか
| 技術 | 冷やし方 | トレードオフ |
|---|---|---|
| 空冷 | ファンとデータセンターの空調で熱気を運び出す | 成熟していて保守しやすいが、高密度ラックでは風量、騒音、電力消費が急速に悪化する |
| コールドプレート(直接液冷) | GPU や CPU に密着させた金属板の中を液体が流れる | 改修の幅が小さく、NVIDIA の AI ラックの主要路線 |
| 液浸 | 1台まるごと冷却液に浸す | ほぼすべての熱を捕えられ高密度だが、メンテナンス、冷却液、床の耐荷重をすべて設計し直す必要がある |
液体がどれだけ熱を運び出せるかはシステム設計次第で、コールドプレートでも全液冷にできる。たとえるなら、空冷は扇風機で熱い鍋を扇ぐこと、コールドプレートは保冷剤を鍋底に当てること、液浸は鍋ごと冷水に浸すことだ。
AI はなぜそれに注目を集めさせるのか
理由は電力密度だ。GB300 NVL72 は1ラックあたり約132~142kW(サーバーメーカーの仕様。NVIDIA はラック全体の数値を公表していない)に達し、ファンではとうに足りない。液浸は極めて高い密度に対応でき、同じ研究は、空冷と比べてエネルギーと水の使用量の両方に改善の余地があるとも指摘している。
2026年の現況:液冷は拡大、主役はコールドプレート
TrendForce の2026年8月の推計では、AI チップの液冷採用率は2025年の約33%から、2026年に約53%、2027年に60%近くへ上がる。
ただし、この拡大の主役は液浸ではなくコールドプレート(direct-to-chip)だ。NVIDIA が2026年下半期に出荷を始める Vera Rubin NVL72 はラック全体が液冷で、演算トレイにファンを載せないが、使っているのはコールドプレートモジュールだ。液浸の多くはパイロット、特殊な高密度用途、暗号資産マイニングにとどまり、「潜在力はあるが、まだ初期段階」と理解するのが正確だ。
プレイヤーと台湾メーカーの役割
海外で液浸槽やソリューションを手がけるのは Submer、GRC、LiquidStack などで、LiquidStack は2026年3月に米空調大手の Trane に買収された。サーバーの統合では Supermicro や GIGABYTE、CDU と放熱では Vertiv がいる。
台湾メーカーで比較的明確な液浸製品を持つのは、緯穎(Wiwynn、二相液浸槽、かつてマイクロソフトと協業)、台達電(Delta、二相液浸ソリューション)、廣運(Kenmec、熱伝事業に液浸式液冷システムと冷却液を含む)だ。雙鴻(Auras)、奇鋐(Asia Vital Components)、高力(Kaori)、勤誠(Chenbro)などはよく「放熱関連銘柄」に分類されるが、公開情報の多くはコールドプレート、CDU、熱交換などの分野で、液浸製品ははっきりしない。名前が挙がることは産業上の役割の可能性を示すだけで、受注や恩恵の度合いを意味しない。本記事は個別銘柄を推奨せず、投資助言も構成しない。
どこで止まっているか:冷却液、メンテナンス、標準
- 冷却液:3M は2025年末に PFAS 製造からの撤退を完了しており、含フッ素冷却液に頼る二相方式は供給と規制の両面で圧力を受けている。
- メンテナンス:保守のたびにサーバーを液体から引き上げる必要があり、手順、防護、トレーニングをすべて作り直さなければならない。
- 標準:業界標準はまだ統一されておらず、各社のやり方が異なる。
- データセンターの改修:液槽は重く、耐荷重、配管、消防、漏液対策をすべて設計し直す必要があり、コールドプレートよりはるかにハードルが高い。
小企鵝(Penchan)のまとめ
液浸の放熱上の強みは本物だが、ここ2年で AI 液冷として量産が拡大しているのはコールドプレートだ。「液浸関連銘柄」を見かけたら、まずその会社が売っているのが液浸槽なのか、コールドプレートなのか、CDU なのかを見分けたい。役割が違えば、AI ラックとの関係も違う。
放熱サプライチェーンの全体像は 液冷 を、データセンターの演算能力と電力の上限は AI データセンター を読んでほしい。