前回の Blackwell の関 で扱ったのは NVIDIA の GPU、つまり AI チップの主流だ。もう1本の筋が、Google、Amazon、Meta、Microsoft といったクラウド大手である。彼らは NVIDIA から GPU を買う一方で自らチップも作っており、こうした自社開発の AI チップの多くが ASIC にあたる。

この記事は AI ハードウェアサプライチェーン総まとめ の第1関「AI チップ」の深掘り版だ。


ASIC とは何か?GPU とどう違うのか

ASIC の正式名称は Application-Specific Integrated Circuit、平たく言えば「特定のタスクに合わせて作ったチップ」だ。

GPU は汎用の並列演算チップで、さまざまなモデルや作業を走らせられ、柔軟性が高い。その代わり、使わない機能の分までコストを払うことになる。ASIC はその逆で、ある種の作業(たとえばある種の推論)に的を絞り、汎用性を犠牲にして、その作業におけるコスト、消費電力、効率の優位を取りにいく。Google は自社の TPU を AI 専用の ASIC と定義している。

たとえるなら、GPU は何でも切れるスイスアーミーナイフ、ASIC はある料理のために誂えた包丁だ。それしかできないが、速く、安くやってのける。


なぜクラウド大手は自分でチップを作るのか

NVIDIA の GPU を買えるのに、なぜ大金をかけて自社開発するのか。主な理由は4つある。

  • コスト:自社データセンターでの使用量があまりに多く、自社開発すれば調達費と運用費をかなり節約できる。
  • 最適化:自社のモデル、レコメンドシステム、推論サービスに合わせて設計できる。
  • 依存低減:命綱を単一サプライヤーに預けきらない。
  • 差別化:チップを自社クラウドと結びつけ、他社が真似できない組み合わせを作る。

4大クラウドの自社開発チップ

チップ状況(2026年10月時点)
Google TPU第七世代 Ironwood は一般提供済み。1基あたり 192GB の HBM、1つの pod に最大 9,216 基。第八世代 8t/8i は2026年4月に公開されたが、Google Cloud ではなお「近日提供予定」の表示
AWS TrainiumTrainium3 は AWS 初の 3nm AI チップで、2026年初に出荷が始まり、ほぼ予約で埋まっている。Trainium4 の広範な提供は2027年ごろの見込み
Meta MTIA推論が主眼。2026年3月に公式に数十万基を展開済みと発表し、MTIA 300 は量産中、2年以内にさらに3世代を投入する
Microsoft MaiaMaia 200 は2026年1月に発表。TSMC の 3nm プロセスで、推論が主眼

自社開発チップは外部への販売も始まっている。Alphabet の CFO によれば、2026年第2四半期から Google は初めて TPU システムを顧客自身のデータセンターへ直接納入した。Amazon は2026年7月、チップ事業の年換算売上高が250億ドルを超え、Anthropic と OpenAI がともに Trainium に複数年・数 GW 規模のコミットメントをしたと述べている。

OpenAI も Broadcom と組み、2026年6月に初の推論チップ Jalapeño を発表した。エンジニアリングサンプルはすでにラボでモデルを動かしており、2026年末までの初期展開を目標とする。Broadcom の CEO ホック・タン(陳福陽)は、量産の本格化は2027年、フル稼働は2028年上半期だと述べており、まだ量産済みのチップではない。


Broadcom、Marvell、台湾:誰が彼らを手伝っているのか

クラウド大手には構想があるが、チップの細部設計、パッケージング、相互接続には専門のパートナーが要る。その役割は2種類に分かれる。

ASIC 共同設計者:Broadcom(博通)と Marvell(邁威爾)は部品を売るだけでなく、クラウド大手と一緒にカスタムチップを設計し、ネットワーク相互接続を提供する。Broadcom は Google TPU、Meta MTIA、OpenAI との協業を公表しており、2026会計年度第3四半期(2026年8月2日まで)の AI 半導体売上高は167億ドル、前年同期比221%増だった。Marvell も2026年8月の SEC 提出書類で、Google とのカスタムチップ協業の拡大を開示した。

台湾の ASIC 設計サービス会社:Alchip(世芯-KY)と GUC(創意電子)は、設計から委託製造までの一括サービス(turnkey)を提供する。実際の顧客の多くは非公開で、市場がどのクラウド大手に対応づけるかは、しばしばアナリストの推測であって会社の公告ではない。本記事は産業上の役割を描くだけで、受益銘柄を整理することはせず、投資助言でもない。

「ASIC 関連銘柄」は台湾株で人気のテーマで、市場はふつう設計サービス、シリコン IP、先端パッケージング、ファウンドリ、テストインターフェースをまとめて議論する。この銘柄群がなぜ人気なのかを理解するのはよいが、テーマの過熱を個別銘柄の推奨と取り違えてはいけない。


ASIC は NVIDIA を取って代わるのか

答えは「伸びている」ことと「どれだけの比率を占めるか」を分けて考える必要がある。調査会社 TrendForce は2026年4月、2026年の ASIC 型 AI サーバーの比率を28%近くから約27%へ小幅に下方修正した。大半はなお GPU 機種だ。

NVIDIA の堀はチップそのものだけではない。開発者に広く使われている CUDA ソフトウェアのエコシステムと NVLink 高速相互接続もあり、一式まるごと移すコストは高い。

AI 企業自身も複数社を併用している。Anthropic は Google TPU と AWS Trainium を両方使っており、AMD の2026年8月の決算でも、Anthropic が最大 2GW の AMD GPU を展開すると触れている。自社開発 ASIC は GPU が担ってきた需要の一部を少しずつ取り込んでいくが、各社は賭けを分散しているのであって、全面的に乗り換えているわけではない。


小企鵝(Penchan)のまとめ

ASIC は汎用性と引き換えに効率とコストを取るカスタムチップだ。Google TPU、AWS Trainium、Meta MTIA、Microsoft Maia の背後には、しばしば Broadcom、Marvell、台湾の設計サービス会社の姿がある。

GPU の側を見たいなら Blackwell とは を、これらのチップがどうパッケージングされ、データを供給されるかは CoWoS と HBM を、チェーン全8関は サプライチェーン総まとめ を参照してほしい。

自社開発 ASIC は、クラウド大手が自らコストを抑え、差別化するための長期路線だ。GPU はなお主流で、短期は取って代わりではなく共存である。