前回の ASIC の関 で触れたとおり、クラウド大手は NVIDIA を買うだけでなく、いずれも AI チップを自社開発している。その中で最も歴の長いのが Google の TPU だ。

本稿は AI ハードウェアサプライチェーン総まとめ 第1関「AI チップ」の Google TPU 深掘り版で、TPU とは何か、GPU とどう違うか、誰が使い、誰が Google の製造を手伝うのかを見る。


TPU とは何か

TPU の正式名称は Tensor Processing Unit(テンソル処理ユニット)で、Google が自社開発した機械学習向けの ASIC(特定のタスク向けに作ったチップ)だ。

GPU はより汎用的な並列演算チップで、何でも演算でき、ソフトウェアのエコシステム(CUDA)が成熟している。一方 TPU は、行列演算、HBM メモリ、チップ間相互接続、コンパイラを一体で設計し、AI の学習と推論に特化して、コスト・消費電力・スケール化の面でより割に合うことを目指す。たとえるなら、GPU は何でも切れるスイスアーミーナイフ、TPU は Google が自社のいくつかの料理のために誂えた包丁だ。

Google は NVIDIA を使わないわけではない。Google Cloud は TPU と NVIDIA GPU の2本の製品ラインを並行して提供している。


世代小史:第一世代から Ironwood まで

世代要点
第一世代2015年から Google データセンター内部で使用、検索ランキング、ストリートビュー、AlphaGo を処理
第二~四世代推論から大規模学習へ徐々に移行
第五・六世代v5e(コスト重視)、v5p(性能重視)、その後 Trillium(v6e)
第七世代 Ironwood(TPU7x)正式提供済み。各チップ 192GB HBM、単一 pod に 9,216 基
第八世代 TPU 8t/8i2026年4月に公開、8t は学習、8i は推論。2026年10月時点で製品ページはなお Coming soon と表示

仕様はいずれも Google 公式のもの。第八世代は「公開済み・提供待ち」と理解し、すでに借りられるものと思い込まないことだ。


TPU vs GPU:NVIDIA に取って代わるのか

答えは「Google 社内」と「市場全体」の2つの尺度に分けて見る必要がある。

Google 社内では、Gemini の需要が直接チップ設計に反映でき、TPU の優位は明らかだ。調査会社 TrendForce は、2026年に TPU が Google 自社 AI サーバー出荷の約78%を占め、Google は主要クラウド事業者の中で唯一 ASIC の出荷が GPU を上回る一社だと推計する。

世界で見ると話は変わる。TrendForce は2026年4月、ASIC(TPU を含む)を使う機種が世界の AI サーバーの約27%と推計しており、GPU がなお多数派だ。NVIDIA の堀は CUDA エコシステムとクラウドをまたぐ汎用性にあり、外部の開発者が TPU に移るには移行コストもかかる。だから短期は取って代わりではなく、並存と分業だ。


誰が TPU を使っているのか

Google 自社の検索や Gemini は TPU 上で動いている。外部ユーザーはこれまで主に Google Cloud を通じて借りてきた。Alphabet の CFO は2026年7月の決算説明会で、Google が第2四半期に初めて TPU システムを顧客自身のデータセンターへ直接納入したと述べ、こうした契約の売上高の大半は2027年に計上されるという。

最も注目される外部顧客は Anthropic だ。2025年10月に Google Cloud TPU の採用拡大を発表し、最大で百万基、2026年に 1GW 超の容量を見込む。2026年4月にはさらに Google、Broadcom と契約し、2027年から Broadcom を通じて約 3.5GW の次世代 TPU 算力を得る。

ただし Anthropic は TPU だけに賭けているわけではなく、AWS Trainium と NVIDIA GPU も使う。AMD も2026年8月、Anthropic が最大 2GW の MI450 を導入すると発表した。複数社の併用は、大手 AI 企業の常態だ。


誰が Google の TPU を作るのか、台湾メーカーの役割

TPU のアーキテクチャとソフトウェアは Google 自身が握り、細部設計、製造、パッケージングはパートナーに任せる。

最も明確なのは Broadcom(博通)だ。Broadcom は2026年4月の SEC 文書で、Google の今後の世代の TPU についてカスタム設計と供給を担い、AI ラック向けのネットワーク部材も提供すると確認した。協力期間は2031年までだ。

製造面は、現時点ではメディア報道しかない。TrendForce が2026年8月に工商時報を引用して伝えたところでは、第八世代 TPU は TSMC の N3P プロセスと CoWoS-S パッケージを採用し、MediaTek がチップ設計に参加しているという。Google はプロセスノードを公表しておらず、MediaTek の役割も認めていない。

台湾株でよく言われる「TPU 関連銘柄」(設計サービス、テスト、後工程、基板、放熱・電源など)の名簿は、多くが証券会社のサプライチェーン推測で、Google や Broadcom の発表ではない。名が挙がっても受注済みとは限らない。本稿は産業上の役割を描くだけで、投資助言ではない。


小企鵝(Penchan)のまとめ

TPU は「自社の需要が大きすぎて、自前でチップを作る価値がある」ことの代表例だ。Google は垂直統合でコストと電力効率を手に入れ、いまや TPU を顧客自身のデータセンターにまで送り込み始めた。

ただし TPU の勢いを見るときは、Google 社内の配分と世界市場、公式発表とサプライチェーン報道を分けて考える必要がある。TPU は NVIDIA 以外の重要なルートだが、まだ代替品ではない。

TPU がどの種類のチップかは ASIC とは を、GPU の側は GPU とは と Blackwell を、これらのチップへのデータ供給は HBM を読んでほしい。チェーン全体に戻るなら サプライチェーン総まとめ へ。