AI チップの話になると、みんな TSMC の受託製造と NVIDIA の設計を思い浮かべる。もう一段上流へさかのぼろう。TSMC が最も先進的なチップを作るには、まずあるオランダの会社から装置を買わねばならず、そのうちの一種類は世界でその会社しか作れない。その会社が ASML である。
この記事は、AI ハードウェアサプライチェーン総まとめ の第4関「ファウンドリと露光装置」の深掘り版だ。
EUV とは何か?ひとことと、ひとつの比喩で
ASML の最も有名な製品が、EUV(Extreme Ultraviolet、極端紫外線)露光装置だ。光でチップの回路パターンを投影し、シリコンウェハに焼き付ける。この工程を「リソグラフィ(露光)」と呼ぶ。
鍵は波長にある。EUV の光の波長はわずか13.5ナノメートルだ。光は一本のペンのようなもので、波長が短いほどペン先が細く、描ける線も細かくなる。先端チップは数百億個のトランジスタを爪ほどの面積に詰め込む。その量産の多くを支えるのが、この極細のペンだ。
1世代前の DUV(深紫外線)は波長が長い。細かいパターンを描くには、パターンを分けてから別々に露光する必要があり、業界ではこれをマルチパターニングと呼ぶ。
なぜ先端ノードの多くで EUV が使われるのか
DUV でも先端チップは量産できるが、パターンが細かくなるほど露光と加工の工程が増える。EUV は重要な層の工程の複雑さとコストを下げられる。
ハイエンドの AI チップの多くは EUV プロセスを使うため、ASML の装置供給が量産能力を左右する。
なぜ ASML はチェーン全体の命門なのか
EUV の難しさは、使うことだけでなく「作る」ことにある。1台は数万点の部品から成り、光源、反射鏡、精密機構のハードルはどれもきわめて高い。その結果、世界で ASML 1社だけが EUV 装置を量産できる。 1台は1億ユーロを超え、買えて、しかも手に入れられる顧客はもともと数えるほどしかいない。
コアデータのスナップショット
| テーマ | 数値 | 時点/出典 |
|---|---|---|
| EUV 光の波長 | 13.5ナノメートル | 規格 |
| Low-NA EUV | 0.33 NA、1回露光の解像度 約13ナノメートル | ASML 規格 |
| High-NA EUV | 0.55 NA、約8ナノメートル、パターンは約1.7倍細かい | ASML 規格 |
| 販売台数(売上計上) | EUV 48台(うち High-NA 4台)、DUV 279台 | 2025年、ASML アニュアルレポート |
| 売上高 | 約327億ユーロ | 2025年、ASML アニュアルレポート |
| 通期売上高見通し | 430〜450億ユーロ | 2026年、ASML が2026年7月に公表 |
Low-NA と High-NA:新世代が量産へ
EUV にも世代があり、違いはレンズの「開口数(NA)」にある。NA が大きいほど細かく描ける。TSMC の現行の先端ノードが頼るのは Low-NA だ。新世代の High-NA はさらに細かいが、1台がより高価で、本体も大きい。
High-NA は2026年に量産の段階へ入った。ASML は2026年7月、Intel がすでに High-NA で Panther Lake(18A プロセス)の一部のチップ層を量産しており、これが High-NA で量産される初のロジック製品だと明らかにした。
輸出規制:なぜ大国はどこも ASML を見据えるのか
EUV は最先端チップを量産するための主要な切符であり、その切符を発行するのは1社だけ。当然、地政学の梃子になる。
米国とオランダの規制のもと、ASML の EUV は一度も中国に売られていない。オランダは2024年から、より古い DUV 液浸装置も輸出許可の対象に加えた。論理は単純だ。装置を押さえれば、ある国がどこまで先端の製造プロセスに到達できるかを制限でき、チップを直接禁じるより上流で効く。
中国は今も ASML の大口顧客で、EUV 以外の装置を買っている。CNBC の2026年7月の報道によると、ASML の CFO は中国が2026年の売上高の約2割を占めると見込む。米議会の MATCH Act などの法案は、DUV 液浸装置の対中輸出を全面的に制限しようとしているが、2026年9月下旬時点でまだ成立していない。ルールの詳細は 輸出規制とは を参照。
台湾と TSMC:高度に依存しつつ、自らのペースで導入
TSMC の N7+、N5、N3、N2 などのプロセスは ASML の EUV に支えられている。
ただし TSMC は、High-NA を真っ先に使おうとはしない。まず Low-NA をマルチパターニングと組み合わせて使い倒し、2026年9月になってようやく正式に発表した。2030年から先端ノードで High-NA を量産導入し、ASML と組んで12インチフォトマスクを推進するという。この関での台湾の価値は、装置を買えることだけでなく、装置を大規模な量産能力に変えられることにある。
ASML は AI を自社にも生かしている。2025年に欧州の AI スタートアップ Mistral に出資し、ASML の公式発表によれば、両社の2026年の試験運用では AI で装置のサブシステムのエラーを診断し、問題の特定が7割以上速くなった。
小企鵝(Penchan)のまとめ
EUV の技術的な詳細は EUV とは を、完成したチップがどうメモリと一緒にパッケージされるかは CoWoS とは と HBM とは を読んでほしい。チェーン全8関のつながりは、サプライチェーン総まとめ に戻って確認できる。
ASML の位置を覚えておこう。半導体チェーンの最上流にあり、EUV 装置は世界でここしか作れない。この独占的な地位が、ASML を先端ノードの命綱であると同時に、輸出規制の梃子にもしている。