AI ハードウェアといえば、多くの人は GPU、HBM、CoWoS に目を向ける。だが、データセンターに数万個の GPU を詰め込むと、別の問題が浮かび上がる。これらのチップどうしは、どうやって速く、しかも省電力にデータをやり取りするのか。業界が出した答えがシリコンフォトニクスだ。

この記事では、シリコンフォトニクスとは何か、CPO がどう省電力を実現するのか、そして台湾の位置づけを整理する。AI ハードウェアサプライチェーン総まとめ の第5関門を深掘りした版だ。


シリコンフォトニクスとは?一言で言い切る

シリコンフォトニクス(silicon photonics)は、「光を伝える部品」をシリコンチップやパッケージの中に作り込む技術だ。

チップの中で、データは電気信号として流れている。シリコンフォトニクスはその電気信号を光に変え、光ファイバーで送り出し、相手側で再び電気に戻す。一言で覚えるなら、シリコンフォトニクスは光で「データを運ぶ」技術だ。 GPU は相変わらず電気で計算し、シリコンフォトニクスはチップ間でデータを運ぶことだけを担う。

これまでは、電気信号がまず基板上をしばらく走り、外付けの光モジュールの中で光に変換されていた。AI のデータ量が大きくなりすぎて、この短い道のりさえ負担になったため、業界は変換点をチップのすぐ隣へ移そうとしている。


なぜ AI クラスターはますます光インターコネクトを必要とするのか

AI データセンターを巨大なスポーツチームにたとえてみよう。GPU は選手、光インターコネクトはパスのルートだ。選手が多く、散らばって立つほど、パスは速く、遠くまで届かなければならない。

大規模モデルの学習では、数万個の GPU が絶えずデータをやり取りし、スイッチも同じラックにないことが多い。距離が伸びると、銅配線の信号は減衰して歪み、消費電力と発熱も急増する。光ファイバーなら長距離でも高速を保ちつつ省電力にでき、速度も 400G、800G から 1.6T へと上がってきた。

ごく短い距離の接続では今も銅ケーブルが使われる。光がまず解決するのは、ラックをまたぐ、より広い帯域が必要なボトルネックだ。


コアデータのスナップショット

テーマ数値出典/性質
800G 以上の光モジュールの出荷比率2024年 約19.5% → 2026年 60%超TrendForce 推計
1.6T 光モジュール2026年に量産の立ち上がり、まだ 800G を置き換えていない2026年
AI データセンター向け光通信モジュールに占める CPO の浸透率2026年 約0.5%、2030年 約35%の見込みTrendForce 推計

CPO(コパッケージド・オプティクス):光エンジンをチップの隣へ運ぶ

CPO(co-packaged optics、コパッケージド・オプティクス)は、「光エンジン」をスイッチチップやアクセラレータと同じパッケージのすぐ隣に置く。電気信号が基板上を長く走ってから光に変わる必要がなくなり、損失が小さいほど省電力になる。

Nvidia が公表した数字では、従来の外付け光モジュールは1インターフェースあたり約30ワット、電気的損失は約22 dB だ。CPO に替えると約9ワット、約4 dB になる(dB が低いほど、信号を補うための回路と電力が少なくて済む)。Nvidia は自社のシリコンフォトニクス・スイッチの電力効率が5倍になるとしている。数万ポートのクラスターでは、浮いた電力をより多くの GPU の稼働に回せる。

1インターフェースあたりの消費電力を比べた横棒グラフ。従来の外付け光モジュールは約30ワットで、電気信号が基板を走ってから光に変わる。CPO(コパッケージド・オプティクス)は約9ワットで、光エンジンをチップのすぐ隣に置く。数字は Nvidia の公表値。
光エンジンをチップの隣に移すと、電気信号が走る距離が短くなり、1インターフェースあたりの消費電力が大きく下がる。

CPO と着脱式(プラガブル)光モジュールの比較や各社の製品の詳細は、CPO とは を参照してほしい。


いまどこまで来ているか:量産は始まったが、まだ初期段階

2026年に量産に入った製品には、NVIDIA の CPO スイッチと TSMC の COUPE がある。

  • Nvidia:イーサネット版の Spectrum-X Photonics スイッチは、2026年8月に本格量産を発表した。InfiniBand 版の Quantum-X Photonics は、Wccftech の報道によれば、6月にエンジニアリングサンプルがクラウド事業者 Lambda に届いた。
  • TSMC:工商時報の報道によれば、TSMC は2026年7月の決算説明会で、シリコンフォトニクス・プラットフォーム COUPE の生産開始を確認した。
  • ブロードコム:TrendForce によれば、前世代の 51.2 Tbps の Bailly CPO スイッチはすでに量産に入っている。

ただし、量産は普及と同じではない。TrendForce は、CPO スイッチが大量に出荷されるのは2027〜2028年になると推計している。

もう一つのシグナルは標準化だ。2026年初め、AMD、ブロードコム、Nvidia が Microsoft、Meta、OpenAI などと光インターコネクトの標準化団体 OCI MSA を結成し、AI ラック内の短距離光接続の仕様を定めている。ロードマップは毎秒 3.2Tb 以上を見据える。巨大企業がそろって標準を作るのは、光インターコネクトが長期的な方向になった証拠だ。


この関門における台湾の役割

この関門で、台湾は深く関わっている。

  • TSMC:COUPE はシリコンフォトニクス・チップと電気制御チップを一つの光エンジンに統合し、高性能計算チップと一緒にパッケージングできる。TrendForce によれば、Nvidia の Spectrum-X CPO スイッチは COUPE を採用している。
  • Nvidia の CPO サプライチェーン:StorageReview の報道によれば、Spectrum-X Photonics は TSMC がシリコンフォトニクス・チップを製造し、SPIL(矽品)がパッケージングとテスト、鴻海(Foxconn)がシステム組み立てを担う。鴻海も2026年8月、CPO スイッチは計画どおり第3四半期に量産出荷すると述べた。
  • その他の工程:台達電子(Delta Electronics)はブロードコム Bailly の量産を支えている(TrendForce による)。台湾メーカーは光モジュールの組み立て・テスト、受動光部品(コネクタやレンズのように自ら発光しない部品)、光電子部品にも広がっている。

ここでは産業の地図を示すだけで、個別銘柄への投資判断は一切行わない。


小企鵝(Penchan)のまとめ

シリコンフォトニクスは光でデータを運ぶ技術だ。AI クラスターが大きくなり、銅配線が苦しくなるほど、脇役から重要なインフラへと変わってきた。CPO はさらに光エンジンをチップの隣に置き、大幅な省電力と引き換えに、より広い帯域を得る。

2026年には NVIDIA の CPO 製品が量産に加わったが、CPO 全体の浸透率はまだ低く、普及には時間がかかる。方向はすでに定まっており、次に見るべきは普及のスピードだ。

同じく先進パッケージングで部品を寄り添わせる話を読みたいなら、CoWoS とは と HBM とは を。チェーン全体がどうつながるかは サプライチェーン総まとめ に戻ってほしい。